第72回
愛己第七十二
2019.03.19更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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愛己第七十二
72 人々を圧迫するような政治をしてはいけない
【現代語訳】
人々が統治者の威光というものを恐れなくなると、世の中は乱れていずれ大きな天罰がやってくるだろう。
人々の住むところを狭めてはいけず、人々の生業(なりわい)を圧迫してはいけない。そもそも圧迫しないからこそ、人々は嫌だとは思わないのである。
それゆえ「道」と一体となっている聖人は、自らをよくわかっているが、そのことを見せびらかしたりしない。自らを大切にするが、偉そうにすることはない。だからあの見せびらかしたり、偉そうにすることを捨てて、このような自分を大切にし、偉ぶらない無為の政治を取るのである。
【読み下し文】
民威(たみい)を畏(おそ)れざれば、則(すなわ)ち大威(たいい)(※)至(いた)る。
其(そ)の居(お)る所(ところ)を狎(せば)める(※)こと無(な)く、其(そ)の生(い)くる所(ところ)(※)を厭(あつ)する(※)こと無(な)かれ。夫(そ)れ唯(た)だ厭(あつ)せず、是(ここ)を以(もっ)て厭(いと)わず(※)。
是(ここ)を以(もっ)て聖人(せいじん)は、自(みずか)ら知(し)りて自(みずか)ら見(あら)わさず、自(みずか)ら愛(あい)して自(みずか)ら貴(たっと)しとせず。故(ゆえ)に彼(か)れを去(す)てて此(こ)れを取(と)る。
- (※)大威……ここでは、人々の反乱による天罰をいう。前の「民威」の「威」は統治者の威光を意味しているが、それは本章の後に出てくる文章からわかるように、権力をかさに人々を無理に支配、介入することでは生まれない。逆に圧迫しない「無為」の政治こそ真の威をもたらすのである。
- (※)狎める……狎は「狭」の借字で、狭めるの意味。
- (※)生くる所……生業。生活、生計の手だて。
- (※)厭する……圧迫する。
- (※)夫れ唯だ厭せず、是を以て厭わず……前の「厭」は圧の意味で、後の「厭」は嫌がると解する。前と後の「厭」を同じに解する立場もある。すると、「そもそも圧迫しないから、人々も圧迫されない」などと訳する。
【原文】
愛己第七十二
民不畏威、則大威至。
無狎其所居、無厭其所生。夫唯不厭、是以不厭。
是以聖人自知不自見、自愛不自貴。故去彼取此。
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